2026/07/12
「市民の声」とは誰
言葉には、苦い記憶を呼び起こすものがある。私にとってそれは「アンケート」だ。
書籍編集者だった頃、本文の主張を裏付けるために「巻末にアンケート結果を入れましょうか」と、著者の田原総一朗先生に提案した。
2年近く担当し、いつも優しかった先生が、その瞬間烈火のごとく怒り出した。「アンケートを使うような編集者は辞めたほうがいい」と一喝されたのだ。その時、その言葉は心に深く刺さったが、今なら理解できる。先生のご指摘は正しかった。
マスコミや行政が使う「市民の声」とは、結局のところ「自ら声を上げた人」だけの意見に過ぎない。子育てや仕事に追われる現役世代や、声を上げられない孤立した高齢者など、本当に困っている多数派の声はそこからこぼれ落ちている。さらに、わずかな回答数であっても割合(%)を使って大きく見せるような、表現の罠も存在する。
だからこそ、私たちは「この声がすべてではない」という視点を持たねばならない。そして、都合の良いアンケート結果を根拠に発言する政治家は、「辞めたほうがいい」かも知れない。
昨今、この言葉は言えなくなったが、昭和の話なのでお許しください。
