2026/09/03
書き原稿と読み原稿
編集者をしながらラジオの台本を書き始めた頃、ラジオ局のディレクターに何度もダメ出しされた。「耳で聞いても分からない」と。
原因は書き原稿と読み原稿の違いだった。書き原稿は「目で追って理解する文章」、読み原稿は「耳で一瞬で分かる言葉」だ。
最大の違いは固有名詞の扱いにある。例えば、書き原稿では「同社は」と省略するが、読み原稿では聞き逃しても追えるように、くどいほど会社名を繰り返す。
昔、テレビの朝のワイドショーで、アナウンサーが新聞記事を伝えるとき、頭の中で書き原稿を読み原稿に変換しながら読んでいたのを思い出す。
書き原稿のまま読んでも理解できないことはない。だが、本当に伝わったかは怪しい。最近のオーディオブックは原本を忠実に読む。つまり書き原稿の音声化だ。本来は読み原稿に翻訳して読むのが理想だ。
ラジオの台本を書くとき、CM後の第一声は、決まって「改めましてこんにちは」となる。目に見えないつながりを表現するための工夫だ。
「読んだ気になる」と「分かって聞いた」。この二つの間にある溝をAIが埋める日は近い。そんなことを思いながら今日もキーボードを叩いている。
