2026/05/21
思い出ノート
新聞社での私の最後の仕事は、「自分史」の出版でした。本を出版したい人は、世の中にたくさんいますが、誰もが文章を書けるわけではありません。
目をつけたのは認知症予防財団が監修した「思い出ノート」でした。このノートは、認知症の進行を遅らせるために効果があるとされる「回想法」のために作られたノートでした。
半生を振り返り、100の質問に答えたノートをもとに、ライターが一冊の本に仕上げることでハードルを下げました。
あるお客様は、申し込みをしてノートの3分の1まで書き進めた頃、脳梗塞で倒れられました。「どうしても完成させたい」そう言って、お嫁さんが病院のベッドの横で、一つひとつ質問を読み上げ、うなずきや表情を頼りに言葉を拾っていったそうです。そして、ついに一冊の本が完成しました。本が届いた日、お嫁さんはこう話してくれました。
「義父のことを、私はほとんど知りませんでした。でもこのノートのおかげで、若い頃の苦労も、家族への思いも、たくさん知ることができました」
紙の上につむがれた言葉は、時間が経っても色あせません。家族の絆を何十年もつなぐ、一番あたたかい贈り物になりました。
