2026/08/18
編集者の特権
30代の頃、雑誌編集者として二人の写真家と仕事をした。グラビア企画「昭和の主役」の渡部雄吉先生と、「平成万葉の旅」の山城寿美雄先生。個性的で、毎月の取材が楽しみだった。
渡部先生は小柄で、駅弁を二つ買い「弁当は米が勝負だ」と目を細めた。だがカメラを握ると人が変わる。規制線をすり抜け、被写体に突っ込む姿に私は息を呑んだ。
一方、山城先生との取材は車での2泊3日。1日目は観光地を巡るだけでシャッターを切らない。私は焦った。
2日目も、夜明け前に撮影した後はカメラを置く。だが日が傾いた頃、突然「昨日の場所へ」と言われた。後でわかった。モノクロは斜めの光が落とす影で撮る。先生は怠けていたのではない。最高の一瞬を待っていたのだ。
そんな先生方から、写真のキャプションについて「目で見えることは書くな」とも教わった。こうした一流の凄みを間近で学べることこそ、編集者の特権だった。
「平成万葉の旅」は私の企画で、歌人・辺見じゅん先生に返歌を詠んでいただいた。これも編集者の特権で、最終回は大伴家持ゆかりの鳥取市国府町に決めた。「万葉集」最後の歌が詠まれた地である。
今でもこの近くを通りかかると、当時のことを鮮烈に思い出す。先生方はもう故人となってしまったが、あの教えと光景は私の中に生き続けている。
